最初はね、優しくて…
本当に自慢のお父さんだったんだよ
ぽつりぽつりと言葉を紡ぐキミに、俺はなぜだか目を背けずにはいられなかった。
だってキミの腕があざだらけだったから。
細くて白いその腕に。
02言葉が上手く出てこない、けれど伝えたい
遠くの出口からふわりとした明かりが漏れるだけでそこはほとんど真っ暗だった。
少し湿っぽいその洞窟で、俺は彼女を捕まえた。
「別に蹴られたり、タックルされたことに怒っちゃいねェんだ。ただ、そのよ…お前が心配で」
俺らしくねェな、と自分でもわかるその言葉。
彼女は俺の下で怪訝そうな顔をした。
「あなた、海賊なんでしょう?海賊に心配される覚えはないわ」
「…だよなァ…でも悩みを聞くくらいなら海賊にもできる」
「…そうね、海賊も同じ人間だもの…ありがとう」
「お、おう」
彼女の意外な言葉に驚いた。
思ってもみなかった素直な言葉に、俺は掴んでいた細い手首をそっと放し、立ち上った。
しかしそれでも彼女は身動き1つしなかった。
「…どうした?立てねェのか?」
「…うん…いろんなところが痛いの…」
「す、すまん…こけた時に…」
「違う、もう前からずっと…」
「…?と、とりあえず、立ち上れるか?」
「うん、」
俺の差しだした手にひんやりとした感触。
彼女の冷たい手を持ち上げる。
素直に軽いと思った。
「とりあえずここを出ましょ。真っ暗で何も見えないから…」
「そうだな…」
彼女に肩を貸し、洞窟をゆっくり抜ける。
さっき走った時に全体力を注いでしまったのだろうか。
彼女の足取りは重かった。
「まぶし…ッ!」
「ふふ、綺麗な森でしょ。私の大好きな秘密の場所」
明るみに出て、俺は彼女を切り株に座らせた。
彼女はまたありがとうと頬笑み、突然上着を脱ぎ始めた。
「ちょ、待て待てマテマテ」
「ねぇ、見て。」
彼女の声に逸らしていた目を向けてしまった。
「…!」
真っ白で華奢な背中に真っ青なあざの跡。
あちこちに大きいものから小さいものもちりばめられ、見るに堪えないその姿。
下着姿の彼女は前を向くとお腹にも腕にもそれはあって。
「すさまじいでしょ」
と言いながら彼女はまた洋服を着た。
「それはまさか父親に…?」
「正解。もうかれこれ2年間くらい。虐待というかDVというか、怖くて夜なんか眠れやしないし。身体も心も痛くなる一方。」
「そうか…あの父親…」
「私さっきあなたが恐ろしい目つきで父を睨んだ時ね、殺されるって思った。その一瞬…ほっとした自分がいた。」
「…」
「…ダメな娘だよね。そんなダメな娘になりたくなくてあなたにタックルしちゃった。びくともしなかったけどね。」
彼女は優しく笑った。
そのあざがウソのような笑みだった。
「私、今までずっと逃げようとも考えたんだけど、こんな小さな島で逃げたとしても生きていけないし…っていうかすぐ見つかっちゃうしね。本当は海に…でたかったんだけど、この島に寄る人なんていなくてさ。ログなんて10分で溜まっちゃうんだよ。旅行客すらこないこんな島から出るなんて私にはできなかったの…。」
「お前、出たいのか?」
「え?」
「海に…」
言葉が上手く出てこない、けれど伝えたい
(ずっと海に憧れてた)