03

海に出たいと言った君の顔が忘れられない。
いまになってもずっと。

切ない頬笑みで無理だよねって諦めた。
あの顔がどうしても忘れられない。
それと同時に俺の中のモヤモヤも晴れない。
海賊だから、と言い聞かせてもそれは消えなくて。
君の心の傷が消えないのと同じように。







03まさか感謝されるなんて思ってもみなくて







「さてと、戻ろっか。」
「んぁ?」
「あなたも早くここから出て行った方がいいんじゃない?この島、小さいからすぐにあなたが来た事が噂になる。早く逃げなさいよ」

ねっ、とまたにっこりほほ笑んだ。

彼女は心と身体に大きな傷があるのに。
それを隠して笑う彼女をどうしてだか助けたいと思ってしまった。

「海に出りゃいいじゃねェか」
「だから、話きいてた?無理なの」

彼女はそう言い、立ち上ると来た道を引き返そうとした。

一瞬見えた顔が苦しそうだった。
海に出たいのか…?
でも父親に悪いと思って出られないのか…?
きっと海に出ようとすれば、どんな手を使ってでも出れただろう。
それができなかったのは自分を痛めつけている張本人の父親の存在だ。
怖い、けれどたった一人の血縁者で、母親が亡くなった以上自分が支えてあげないとダメだと思ったんだろうな。
でもこれ以上父親と彼女を一緒にいさせたら…
さっき椅子を振り上げた父親を思い出して、柄にもなくゾッとしてしまった。

俺は彼女の去っていく背中を見据えた。
この洋服の下には大きなあざと心の傷がある。
なんでだかその背負っている闇が自分と少し重なって。
俺たちの家族なら助けられるんじゃねェかってそう思ってしまった。
でもそう思ったんならやるしかねェだろ。
俺は海賊だ。
やりたいことは無理やりにでもやるまでだ。
だから。

「…奪ってく」
「きゃっ!」

驚く彼女を抱いて俺は走った。
ずっと南に歩いてきたからストライカーは左方向で間違いないはずだ。
彼女は振り落とされないよう、俺にぎゅっとしがみついている。

そう、それでいいんだ。
誰かを頼って、しがみついて生きていかねェと。

「やり!」

視界に入ってきたストライカー。
そこまでもう少し。

「よし、出発だ!」

って、

「なんかうまくいきすぎてねェ?」

俺はストライカーに座らせた彼女を見下ろした。
…抵抗、されてねぇな。

「おい、誘拐されそうになってんだぜ?ちょっとは…」

抵抗したらどうだ、なんて誘拐する方が笑っちまうぜ。
と思ったけど、そんな野暮なことはもう聞かないことにしよう。

「海に、出たかったんだな」
「…っ!!…っ、…!!」

父親から解放される喜びと、
誘拐される緊張と、
この島に帰ってこれない悲しみ。

不安だよなァ。
億超えの海賊に連れ去られるなんて。


「あ、り…っがと…っ!」









まさか感謝されるなんて思ってもみなくて
(もう島があんなに小さい…)