「ねぇーエース、あのこはだあれ?」
「見たことねぇな。が知らねぇなら俺も知らん」
寒い寒い雪の中、唯一の暖かい太陽に目を細めて、元気よく叫ぶ彼女の頭を撫でる。
もうかれこれ3時間も歩いている。
こんなにも足場の悪い雪道を。
3時間前。
「こんにちはー」
突然が挨拶をした。
誰かと思ったらでっけぇくまで、俺はびっくりしてを守ろうと抱きしめたら彼女に笑われた。
「エース、このくまさんはハイキングベアっていって、登山好きなくまさんなんだよ。」
「なんだそりゃ」
「登山マナーにはうるさいけど、別に人間を襲ったりしないんだって」
「詳しいな」
「世界の生き物図鑑に載ってたよ」
「ほう…」
そう言って俺の腕からスルリと抜けた彼女はやれあっちはなんだの、こっちはなんだのと博識ぶりを披露した。
それからの知識に任せて歩いてきたけど、そういやさっきから聞かれることが多くなったな。
もちろん俺が答えられるはずもないわけだが。
「さっきの可愛いやつ図鑑にも載ってなかったなー」
「そうか、じゃあもう戻るか」
「やだ!」
「なんで」
「だってもう1匹見たい動物がいるの」
「ふーん」
そうしてさまよって3時間。
俺らは相当森の深くまで来ていた。
「もういないんじゃないか」
「そうかも…」
「これだけ探しても出てこないんじゃなー」
「それにさっきよりも寒くなってきたよね?」
「そうか?」
身震いをしたが辺りを見渡すもんだから俺も太陽の位置を確認しようと見上げてみたら。
「太陽、見えねぇな」
「森の中だからね」
「こんな深いとこに来ちまってたのか」
「そうみたい…ラパーンはあきらめるかあ」
「ラパーンってやつを探してたのか」
「そうだよラパーンはね肉食の巨大なうさぎなんだよ」
「…それって危なくねぇか」
「でも可愛いの!」
はラパーン…と小さくつぶやきながら下を向いた。
そんな姿を見たらなんとしてでもラパーンってやつを見つけてやりたいが、今日はもう時間もねぇ。
「今日は帰るか。明日また来ようぜ」
「いいの!?」
「あぁ」
「やったーエースありがとう」
歩き疲れていたの顔に笑顔が戻る。
よし、歩いて帰る体力は残っていそうだな。
…って。
「、おちついて素早く答えろ。」
「なあに?どゆこと?」
「が言ってたラパーンってだいぶ巨大か?」
「…図鑑で見ただけだから…わかんない」
「そうか、じゃあもう1つ聞く。肉食って人間も入る…よな?」
「どういうこと?」
「…こういうことだ!!!」
「きゃあああ」
突然エースに担ぎあげられたは大声で叫んだ。
ただ単に担がれただけならまだしも、その後全速力でエースが走りだしたから余計に大声になってしまった。
「なに、エースどうしたの!」
「どうしたもこうしたもラパーンが!!」
「ん?ラパーン?」
担がれたが重力に逆らって顔を上げる。
「ぎゃああああああああああ」
「おま、見ねー方が!!」
「こわいこわいラパーンこわいいいい!!」
そこには全速力で飛びながら追いかけてくるラパーンがいた。
口の周りは血だらけであきらかにエースよりも大きい怪獣を持っている。
「可愛くないー!」
「んなこと言ってる場合かよ火…」
「だめええええ!」
「お、おいどうした」
「動物をいじめちゃだめだよ!火拳は絶対だめ!」
「じゃあこのまま走り続けるしかねぇのか」
「がんばってエース!」
ただでさえも足場の悪い雪の中、暗くなり始めている山道をエースは駆け抜ける。
「エースまだラパーンが追いかけてくるよう」
「まじか!なんでだー」
駆け抜けて駆け抜けて駆け抜けて
「目閉じとけ!」
「え!?」
エースが叫んだ瞬間目の前のラパーンが見えなくなった。
落ちている、そう気付いたのは目を瞑った後。
そして痛いと感じる程に響く振動。
姫、担がれる。
「え、エース?」