※高校生パラレルです。
幼馴染で同じ高校なのに会話どころか会うことも滅多になくなった彼。
そんな彼と昼休み、思いっきりぶつかった。
「いっ…た」
「わりィ…って!」
「え、エース…?」
走ってきたエースに体当たりをされて尻もちをついた私たちはお互いの顔をまじまじと見合う。
しかし彼はすぐに私の顔ではなく、違うところに注目した。
気になってその目線の追う先を確認したら胸元だったからエース最低!と思ったがそれどころではなくなった。
「ぎゃー!!」
激しい衝撃によってつぶされたいちごオレの紙パック。
それが破裂して私の制服をびちょ濡れにしていたのだ。
「わ、わりィ!と、とりあえずコレ着ろ!」
いきなりエースは自分のYシャツを脱いで私の頭の上にかぶせた。
びっくりしてエースを見上げたら彼は下にTシャツを着ていた。
「でもこれじゃエースのYシャツまで濡れちゃうよ」
「いや、お前、それはまずいだろ」
少し紅くなった顔を片手で抑えながら指をさされてもう一度濡れた制服を確認すると、濡れたYシャツから下着がもろに透けていた。
「きゃー!!」
もう一度叫んだ私は痛いお尻を上げ、エースのYシャツを持って近くのトイレに駆け込んだ。
持っていたハンカチを濡らし、体についたベタベタを拭う。
そして少し戸惑ったが、エースのYシャツを着た。
男子専用の水色の袖に腕を通すのはもちろん初めてだし、何よりずっと好きだった彼の服。
誰が見ているでもないのにすごく緊張した。
「遅かったな…って、それにはでけェな」
「エース、待っててくれたんだ」
「あァ…ほんと悪かったな」
濡れたYシャツを私の手から取り上げ、頭をかいて謝る彼。
久々にエースの顔をまじまじと見たけど、やっぱりかっこいいな。
「洗って返すからよ、今日はとりあえずそれ着とけな」
エースは私の頭をポンポンと叩くと自分の教室に戻っていった。
私は気づいたらその背中を見えなくなるまで目で追っていた。
それからこの格好で授業を受けたけど、彼のぶかぶかなYシャツがこそばゆくて、ほんわかと香る太陽のような匂いがくすぐったくて、午後の授業は身に入らなかった。
部活後、家に帰ってからも私は今日の出来事を何度も思い出してはニヤけていた。
彼のYシャツも洗って返さなきゃ。
と、立ち上った時、ちょうど携帯が鳴った。
メールだ。
『今日はほんとーに悪かった!なァ、ちょっと家出てこれねェ?』
時刻はもう9時を過ぎていたが、彼の家はたった3軒隣なだけである。
私はすぐに家を飛び出した。
「メールの返信よりも早ェー」
「い、いま返すとこだったんだよ?」
エースは既に家の前で私を待っていた。
そんな彼に早いと笑われたが、彼こそ家を出るのが早いじゃないかと思った。
「それで、エース、どうしたの?」
「これ、洗って乾燥機かけたから持ってきた。」
「はや!!!」
すっと差し出されたそれはきっと私のYシャツが入っているだろう袋だった。
私なんかまだエースのYシャツを着ているというのに…。
これが俺の誠意だ!と得意げに鼻をならす彼に笑ってしまった。
「ん」
「あ、ありがとう」
「…」
「…」
「…」
「…」
荷物を受け取ったあと、しばらく続いた沈黙。
エースと一緒にいたいけど、すごく気まずくなって私がじゃあ、帰るね。と後ろを向いた時いきなり腕を掴まれた。
「エース?」
「あのな、例えば今日みたいなことがあってもよ」
「?」
「じゃなかったらYシャツなんて貸さなねェし、」
「うん…」
「好きなやつじゃなかったらこんなに急がねェし、」
「えっ…」
「なんつーかさ、その」
彼の顔を覗くとすごい真っ赤で、私まで赤くなってしまった。
「が好きだ」
そう言って掴まれていた腕を今度は引っ張られて、私はバランスを崩しながら彼の胸に飛び込んだ。
「私も…ずっと好きだったんだよ」
シャツ
(Yシャツよりも強く香ってくる彼の香り。私の一番大好きな人の香り。)